木造住宅の日射受熱 色やテクスチャーでの違い

鋼板のうえに塗装された看板/赤と白色の受光面温度
以前にアップした記事『 真夏の下町住宅 外壁・屋根温度は50~70℃ 』は、2011年時で最も暑い日の建築外皮温度を調査・考察したものです。今回、先の記事に触れていました窯業系外壁サイディングの展示場みたいな場所へ行き、色やテクスチャーの違いなどによる温度の差を調査してきました。※最高温度では無く、あくまで色やテクスチャーの比較。

場所は埼玉県吉川市のJR武蔵野線に新設された吉川美南駅(2012年3月開業)から西へ徒歩7分の大規模戸建て分譲地。途中にある店らしいものはケーズデンキとローソンのみというこれからの街で、住宅はごく最近に建てられたものばかりです。同時期・同仕様で建てられた木造住宅を同じ環境下で比較調査できるメリットは大きいものでしょう。

調査概要:2012年6月8日晴れ(やや薄曇り)午前11時前後頃に太陽光を受ける面を赤外線サーモグラフィカメラで撮影。【気象観測所(埼玉:越谷)同日午前11時のデータは気温:25.9℃、風向・風速:北北西 1.4m/s ※7日前から平均気温20℃前後で推移】  

調査結果からは、感覚的に黒は熱く、白・シルバーは熱くなりづらいということがある程度定量的に理解でき、温熱的見地からの材料選択や使用方法の可能性が見受けられると思いました。黒は夏に熱く、冬に暖かい、白・シルバーは熱を受けにくく明るいという特徴をどう扱うか。半分冗談な話しですがホッキョクグマ(シロクマ)の地肌が黒く、白毛(透明)2重構造という構成をヒントに住宅の温熱環境をコントロールできないかと思ったりもします。


様々な壁の受光面温度 その1 ※画像クリックで拡大
  • 左上:黒色石積み調窯業系サイディング⇔白色大理石調窯業系サイディング
  • 右上:白色エンボス窯業系サイディング⇔黒色木目調窯業系サイディング
  • 左下:黒色石積み調窯業系サイディング⇔白色エンボス窯業系サイディング
  • 右下:黒色石積み調窯業系サイディング⇔白色石積み調窯業系サイディング


様々な壁の受光面温度 その2 ※画像クリックで拡大
  • 左上:茶色石積み調窯業系サイディング⇔白色エンボス窯業系サイディング
  • 右上:白色エンボス窯業系サイディング⇔薄茶色エンボス窯業系サイディング
  • 左下:ベージュ色石積み調窯業系サイディング⇔白色エンボス窯業系サイディング
  • 右下:ページュ色左官下地吹付け塗装⇔茶色人工木羽目板


様々な屋根の受光面温度 ※画像クリックで拡大
  • 左上:黒色エンボス薄型スレート屋根
  • 右上:レンガ色スペイン風瓦屋根
  • 左下:いぶし瓦屋根
  • 右下:レンガ色スペイン風瓦屋根⇔素地色ガルバリウム鋼板屋根

高齢者居住への試行2 都会と地方の古民家介護活用

「古民家と高齢者介護」古民家活用セミナー(2012.6.3)日本民家再生協会主催へ参加しました。40人超の参加で、介護業界の方が半数を占めるくらい介護活用への興味の程が伺えました。プログラムは、①古民家を活用した介護施設の運営方針や状況など、関東から3事業者が集まりパネルディスカッション。②西東京市で運営する 『和のいえ櫻井』 を実際に見学※当日介護業務は休み。
画像をクリックすると大きく見れます
上図は都会と地方という立地に沿って古民家の介護活用されている『和のいえ櫻井』と『すずかけの家』の概要を簡単にまとめたものです。
パネルディスカッションから、それぞれの施設について感じたことを少々記します。※下記の施設名をクリックするとサイトへ飛べます。

都会型 古民家介護活用 『 和のいえ櫻井

貴重な都会の古民家を如何に風情を崩さず介護施設として活用できるか?という命題に対してリスクを極力負わないバランスのとれた事業運営だと思いました。
  1. 事業運営者はまちづくり的感覚のある建築士。 ロビーの様々な椅子はメーカーのショールーム的利用(宣伝)として提供してもらったり、蔵の漆喰左官修復には左官職人の実物訓練場として利用。庭の花は近所の方が好きで資材ごと持ち込みの管理をしている。また、児童と高齢者のコミュニケーションから昔流の「しつけ」や「うやまい」を誘発する。このようにコストを掛けず、皆が益を得る仕組みは、建築設計者で、かつコミュニケーションに長けている方だからこそできるのでしょう。
  2. 都会人が持つ古民家のイメージを十分に生かしている。都市部にもかかわらず、古民家、蔵、屋敷林、庭、ツリーハウスなどがあり、近隣のなかでは特異な場所となっている。商空間的に言うならば、昔風情が現存するアミューズメント性が高い施設で、レストランやカフェ、ギャラリーとして人気スポットになるようなポテンシャルを持っており、都会に暮らす者にとっては、懐古的なお洒落さや非日常性を体験できる。
  3. 利用者の身体機能からみる古民家のハンデをあえて引き受けない運営。都会であるが故に離職率の高い介護職から、有能なスタッフを抱えるためには、重度ではない要介護者の引き受けによる介護者ストレスの軽減と時給ベースを上げる経営努力が必要になる。古民家の問題となり得る段差や畳座自体をデイサービス(通所介護)に限定することにより身体機能の訓練装置として位置づけているのでないでしょうか。 

地方型 古民家介護活用 『 すずかけの家

過疎・高齢化が進む地方のなか、ダイバーシティ(人材や手段の多様さ)的環境がある場所での事業運営で、山間地域の生き残りモデルになり得ると思いました。※しかし、首都近郊というアドバンテージが大きいかもしれません
  1. 事業運営者は福祉・介護の熟練者。地方であるがゆえに、利用者(要介護者)が選択できる事業者(介護者)の数が少ない。よって、事業者は要介護程度を限定することが難しく、すべて受け入れる必要性があるのではないでしょうか。その分、事業運営者は介護に関して幅広く精通していなければならない。運営主の宮内眞さんの「介護はキレイ事では済まない」という言葉の裏付けは本人の雰囲気と地声の大きさで示されていました。
  2. 古民家での生活は日常のこと。地方では、古民家だからということで特別に扱われることは無いのではと思います。古民家の残存率は都会よりも高いので珍しさがないどころか、日常の生活の場であるケースが多いかもしれません。
  3. 老若男女のコミュニティが多様。アートビレッジやシュタイナー学園、トランジション運動があるなど、過度の貨幣経済に頼らないボランタリー精神を備えた当事者意識の高い住民が比較的多くいることからだと思いますが、介護スタッフが副業?で本を出版するなど、雇用形態が柔軟でユニークです。
そもそも、古民家が高齢の要介護者にとって有益であるか定量的に示せるものではありません。しかし、現在利用している方(古民家が実家であったり、戦時中の疎開先の住まいであった)には会話のきっかけになる材料を与えることがしばしばあるようです。これら都会型と地方型の古民家を活用した介護施設はどちらも成功している例だと思います。今回、見学をしていませんが地方型の『すずかけの家』に興味を強 くいだきました。日本人の生活の未来が潜んでいそうな気がします。また、生活(寝泊り)に使う古民家のこれからの再生には、健康の視点から温熱環境を整える必要があると思いました。


以下は見学した『和のいえ櫻井』の写真です。

メイン(主屋)施設では平日に通所介護と学童保育を行い、週末はスペース貸し
メイン施設ロビーで高齢者のほとんどが過ごす
リビングから畳座室を見る※手前の段差は150mm程度
構造用合板による耐震補強壁※既存復帰も可能な工法
蔵をイベントや左官職人の実地訓練の場として活用
ツリーハウス

ソーラークッカー 太陽熱利用の可能性

エコライフ・フェア2012@代々木公園(2012.6.2~3)の初日に行きましたところ、とあるテントブース前には、光の芸術家オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)のオブジェのようなものが沢山置かれていました。

『ソーラークッカー』という太陽熱を利用した調理装置で、最近太陽熱利用の温水装置をやったこともあり興味津々です。早速、話し掛けたのが写真の(敬愛を込めた意味で)ファンキースタイルな女性へです。頭のキャップはソーラーで動くファン搭載、手にはソーラー充電式の携帯ラジオ、伺うと『ソーラーおばさん』と呼ばれているとのこと。肩書きは→日本ソーラークッキング協会会長の鳥居ヤス子さんです。※協会のサイトへリンクしています。詳しいことが見れます。
「ソーラーおばさん」こと鳥居ヤス子さんとパラボラ型ソーラークッカー

それはそれは、多彩な話しを聞かせていただきました。NHKからのインタビュー時のエピソードやお住まいが「ナニコレ珍百景」にコレクションされたり、アフリカの森林破壊主因のひとつである樹木を薪にしてしまうことを止めるべく、簡単に自作可能なソーラークッカーの普及・指導活動をタンザニアで続けていることなど。また英語がお達者なことから、太陽光(熱)を利用した素朴でユニークな記事を世界から集めていて、スクラップされた一部を見せていただきました。驚いたのは、パラボラ型ソーラークッカーを世界で最初のお披露目したのは、プラネタリウムの五藤光学研究所、その創始者 五藤齊三さんあるということ。下の写真は鳥居さんが苦労して入手された古書『天文夜話-五藤齊三自伝/天文夜話-五藤齊三(1979)』の太陽熱利用のパートの一部です。よく見ると住宅で太陽熱利用の冷暖房開発をしたり、原子力発電の次に来るものは太陽熱であると明言するなど、当時には早すぎたんでしょうか。鳥居さんは、日本人の開発したものが国内より国外で広まっていることを非常に残念がっていました。
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ソーラークッカーのパイオニアはプラネタリウムの五藤光学研究所の創始者

会話はソーラークッカーの実用性に及び、私がアウトドアや別荘での利用は明快であるが、一般都市部の共働きしている家庭の戸建住宅では厳しいのではという問いを投げかけたところ、南に面するキッチンという前提であるが、キッチンカウンター正面壁に内側から取り出し可能なソーラークッカー(保温可能)を設置することは可能じゃないかと言っていました。なるほどと思い、細かな問題点を抜きにしてソーラーキッチンのイメージ画を勝手に描いたのが下図です。
鳥居さんのアイデアであるソーラーキッチンを勝手に私が絵にしてみました

下の写真〈右上〉中央は鳥居さんオリジナルの『鳥居式クッカー』でガスレンジ台下に敷くアルミシートを加工してつくれます。〈左下〉はタンザニアでの普及指導で採用しているクッカー、大変ローテクです。
〈左上〉フェア会場風景 〈他〉様々なソーラークッカー

下の写真〈左上〉は太陽熱温水器の魔法瓶ガラスを利用したクッカーです。このようにソーラークッカーは様々な物があり、直火でないことから安全性が高く、モノを熱するための熱源として、太陽熱はまさに一番合理性がありますなぜなら、発電所で湯を沸かしてタービンを回し電気をつくり、家庭でその電気からまた湯を沸かすなんて二度手間なことです。電気というエネルギーは、石油やガスと違い高級なエネルギーなのです。よって石油・ガスにできないこと(EX:エレベーター、明るい照明、パソコン、テレビ等)をするのが電気の合理的な使い道と考え、石油・ガスには副産物としてプラスチック類や薬品が取れること等も理解し、将来のエネルギー料金の行方と合わせて検討すれば、賢いエネルギー利用スタイルが見えてくると思います。
様々なソーラークッカー




高齢者居住への試行1 急な要介助時の対処

「リハビリテーション研究」1990年9月(第65号)36頁/(財)日本障害者リハビリテーション協会発行に「介護は介助行為によって、対象者の日常生活を支え、本人の生活力を明日につなげる活動、援助でなければならない。介護とは、相手の人格や生活を分析し、その個人の社会的生活を保障し、自立にむけた援助行為(活動)であり、そのための食事、入浴、移動、就寝、排せつな どの介助を通して、社会的人間として活動する上で必要な部分を補完、代行することであろう。」とあります。この文章は、我々設計に携わる建築士という立場で心得るべき 「介護の定義」が最も適切に表現されたものではないかと思っています。高齢者が暮らす住宅の改修はもとより、長く住み続けるであろう若夫婦の新築住宅へも、ライフステージの移行に伴う可変性のテーマにこの定義を善く加えていけば、財政難で医療・介護の在宅化に向かう日本には、必ず役立つと考えられます。

今後、「高齢者居住への試行」というタイトルのブログ記事には、上記「介護の定義」の視点で自分が実際に見たり体験したものをレポートしていきたい思います。

■ 突然の要介助 和室での布団就寝とトイレ移動の工夫

寒さが強まり始める11月初旬(2009年)、独居の父親の体調が好ましくないという知らせを知人から聞き、実家へ急行しました。事前に診てもらっていた内科医からはインフルエンザと判定(が後に大手術)され、5~7日程度は高熱と筋肉痛で身体が不自由になることから、治るまで世話のために仕事や寝食を実家ですることにしました。

丁度、翌月にある福祉住環境コーディネーター2級の受験(が試験へ行けず)にあたって「介護と住生活」の生きた勉強ができるという機会であること、所謂バリアーフリーにとどまらない介護環境の改善について自ら検証したいという思いがわき、即、観察を始めました。※自宅や病院では常にカメラを首からぶら下げ、父親当人の疾病患部写真や大手術後のICUでの動画、治療リバビリ計画書、介護書類など様々な資料を保存管理をしました。もちろん冷淡と思われるのは承知のうえで、実際に白眼視もされましたが瑣末なことで、むしろ入院先の担当医師に写真を見せたことにより疾病判断の一助になった益の方が大きいと感じています。

一般的に掃除や買い物などを介護ヘルパーさんへ頼んだり、杖や手すりなどの自立支援用具類のレンタルや購入補助等の介護サービスを利用するには、「要介護認定」を受ける必要があります。利用者の心身の状態からどの程度の介護が必要かを介護の必要度に応じて判定されます。介護認定審査会(医療・保健・福祉の専門家で構成)で、訪問調査による調査項目から一次判定結果と、主治医意見書、訪問調査による特記事項などを基に、介護の必要性を審査判定し、最終的な要介護度を二次判定として決めます。なお、申請から認定までの期間は、概ね30日かかることから、突然の要介助時には、上記の要介護認定による介護サービスを利用できないので、家族が工夫して介助をやらなければなりません


四肢の関節に痛み(不自由)を抱えながら布団に横たわる前の状態
  • イ:食事や起きる際に背中を起すために布団裏に座イスとクッションを敷く+布団汚れ防止シーツ
  • ロ:歩行器(被介助者の体型や可動姿勢を測り、ホームセンターの材料で自作)
  • ハ:呼鈴(ペンダント照明のひもを伸ばしタンバリンを吊るす)
  • 二:手元の常置品は飲料水・常用薬・ティシュ(湿・乾)・小タオル・尿瓶(しびん)2ケ・電話機・時計・加湿機
何らかの疾患により、突然ADL(日常生活動作:activities of daily living)が満足にできなくなった場合に家族が心掛けることは、当人に羞恥心を極力持たせず生活動作ができるようサポートすることだと思います。私はなるべく廃用症候群(体力低下などによる寝たきり化)のリスクがないよう当人にヒアリングをし、上記イ~二にある最低限の道具立てをしました。※今回はインフルエンザであると言う前提なので入浴に対する対処を検討していません。また要介護認定を受ける時間がないので、介護サービスをこの時点では利用していません。


〈左〉:布団に入りながらの食事(粥) 〈右〉:歩行器を手掛りに立上がる
  • イ:寒さを強く感じることから、毛布+掛け布団2枚
  • ロ:高齢の室内犬が2匹 ※後に問題として扱うようになる
  • ハ:窓を開けず、雨戸を閉めたまま暗い
  • 二:衣類や物が収納されずに雑然と置かれる
旧型のエアコンからの温風が不快と、室温15℃で「イ」布団を重ね掛けるも、夜中に寝返り等で布団がはだけて寒くなり、呼鈴(タンバリン)で私は頻繁に呼ばれました。「ロ」ペットとして飼われている2匹の高齢な室内犬へは、独居高齢者にとって家族である掛替えのなさが一層強い。しかし、給餌や散歩(排せつ)を満足にさせることができないのでは衛生面でのリスクが生じます。また、体力が低下すると今まで普通にやっていたことが億劫になり、「ハ」窓を開けることによる自然採光(日光)の取り入れや換気をしなくなります。また、「二」きちんとした収納を行わなくなり、やがて澱んだ空気で暗く、ホコリだらけの不健康な室内環境に変わってしまいます。


〈左〉:和室からダイニングを通過する 〈右〉:ダイニングから廊下に出る
  • イ:壁端部(柱)を支えにつかむ
  • ロ:ダイニングテーブル端も支えに手を置く
  • ハ:床段差があることで歩行器が扱いづらい
介護のなかで「排せつ」ほど自尊心や羞恥心の面でデリケートなものはないでしょう。尿瓶への排尿は介助をしましたが、排便は当人にとって最も介助されたくない行為とのことです。よって便意をもよおした時は懸命でした。トイレへの移動の際、歩行器(自作)を利用しますが、可動するうえに軽いためなのか安心感が乏しいようで、「イ」「ロ」動かない(動きにくい)手掛りがあるとそちらを身体の安定保持に使う傾向があります。引き戸ではなく扉開閉の煩わしさと「ハ」1CM程度の床段差があると、歩行器を取り回すことが難しいようです。


〈左〉:廊下からトイレに入る 〈右〉:トイレから廊下を通過する
  • イ:トイレ扉のノブをつかむ
  • ロ:ダイニング扉のハンドルをつかむ
  • ハ:排せつ(小)も座りながら行う、便座カバーは閉めない
ダイニングとトイレの廊下を移動する際に歩行器を使わない理由として面白いものを見ました。「イ」「ロ」両手それぞれが開けられたダイニング扉のハンドルとトイレ扉のノブを同時につかんでいます。偶然、手掛りの距離がマッチしたのでしょう。トイレのドアノブについては良く言われるとおり、手の関節の痛みや握力低下から開閉しにくいそうです。身体を曲げるのがつらい者には「ハ」便座のフタ(カバー)の開閉にはストレスがあるので普段から閉めないそうです。


以上が介護状態になった場合の最低限の道具立てと問題点です。どうやら、(非認知症介護者)介護ストレス軽減のカギは排せつ行為に関わる一連の物事を、どうスマートにできるかだと思います。室内の改修のアイデアとして、介護ベッドのほぼ横に便器を置くということを見栄えも含め上手くできれば、介護される側とする側の両者にとって好ましいものになるのではないかと思います。

真夏の下町住宅 外壁・屋根温度は50~70℃

日差しの強さが気になるシーズンの到来です。注意しなければいけないのは、何も女性ばかりでなく、住宅の外皮である外壁や屋根もというのが今回のテーマです。

昨年(2011年)、晴れ(やや薄曇り)の8月18日午後3時20分頃に東京都台東区下谷に建つ建物を西南西方向から赤外線サーモグラフィカメラで撮影しました。
【気象観測所(東京:大手町)の同日午後3時のデータは気温:34.8℃、湿度:54%、全天空日射量:2.25MJ/㎡、風向・風速:南南東 4.7m/s ※九日前から雨のない平均気温30℃超が続き2011年で最も平均気温が高かった日

  • イ:金属瓦〈灰肌色〉屋根/改修(木造住宅)
  • ロ:モルタル塗装〈薄灰色〉外壁(木造住宅)
  • ハ:いぶし瓦屋根(木造住宅)
  • 二:モルタル塗装〈白色〉(寺院塀)
  • ホ:鋼板スパンドレル〈海老茶色〉外壁/RC壁のうえに張る(RC造ビル)
「イ」「ロ」一般的に日差しからの熱吸収が少ない色は反射率の高い白やシルバーですが、(背後の材料を含む)熱容量の差なのかサーモカメラの精度なのか、「ハ」いぶし瓦や他の濃赤の屋根と温度の傾向はあまり変わらない。また「ホ」の鋼板外壁の温度がそう高くはない。夏のことを考えると屋根はシルバーという選択をしてしまいがちですが、もっとサーモカメラによる実態検証を増やしてみる価値があるようです。「二」白色の特性が出ていると考えられます。


  • イ:鋼板瓦棒葺〈灰汁色〉屋根(木造住宅)
  • ロ:鋼製折板〈白色〉外壁(木造住宅)
「イ」同じ屋根部でもここが高温なのは、真横にある白い壁面からの反射光による熱も加わったからと考えます。「ロ」白色系の鋼製折板は、日射による熱吸収が少なく薄肉鉄板なので熱容量も少ないことから50℃という温度なのでしょうか。※埼玉県三郷市や吉川市に大規模な戸建て分譲地があり、それはそれは窯業系サイディングの展示場みたいな場所で、色や表面の起伏の違いによる温度を測定し、レポートするのも面白いのではと思っています。


  • イ:イチョウ(街路樹)
  • ロ:弾性アクリル左官仕上〈胡桃染色〉外壁/改修(RC造ビル)
  • ハ:施釉タイル〈薄灰色〉外壁(RC造ビル)
  • 二:店舗テント〈濃緑色〉庇(RC造ビル)
「イ」葉面気孔開放により蒸散活動をする樹木(イチョウ)は40℃超ですが、冷却効果があるので屋外では樹木の傍が涼しいということがわかります。しかし、強い日差しが続くと水不足によるストレスが起こり、蒸散を止めてしまうので、地植えであっても適切な水遣りが必要です。「ロ」「ハ」の温度が高いのは、縦横の向きは違えど入隅に熱が集まりやすいうえ反射熱も加わるからでしょう。「二」テント庇は濃緑で太陽光を吸収しやすい色になるうえ、テント内部の空気が相当熱せられています。テント生地自体薄く熱容量も極めて少ないので、上部に熱気抜き用の処理を施せば温度は下がると思います。

このように夏の外壁や屋根の温度は50~70℃にもなります。室内もそれぞれ実測してみたいものですが、断熱のない建物は蒸し風呂状態で熱中症の危険性が極めて高いことやエアコン冷房の電力消費量がかさむであろうことが容易に想像できます。

簡単に材料メーカーのカタログデータを鵜呑みにせず、経年劣化がある実物の測定結果を噛み砕くことで材料選定の視点が増えると思います。当然、裏に設ける断熱(材)のコントロールや巷で騒がれている省エネ・節電にも関わり、様々なアイデアへとつながる可能性があるでしょう。

関連記事→『木造住宅の日射受熱 色とテクスチャーの差

医学 + 建築学 ⇒ 健康・省エネ住宅の今後


健康・省エネシンポジウム IN 経団連Ⅴ(2012年5月23日)に行きました。
主催:NPO法人 シックハウスを考える会及び、(一社)健康・省エネ住宅を推進する国民会議
後援:国土交通省、環境省、厚生労働省、経済産業省、林野庁、日本医師会、日本歯科医師会他、生活・建築・インフラ・消費者関連団体、報道関係など多岐。

このシンポジウムは、下記のようにテーマをもちながら開催されてきました。
第1回 「地球環境を守り、同時に国民の健康寿命を守るための住宅」(2008年)
第2回 「家族が健康に暮らせ、日本の産業化にも繋がる健康・省エネ住宅実現に向けての国民合意とその体制づくり」 (2009年)
第3回 「地球環境のための断熱改修から家族の健康、幸せのための断熱改修推進」(2010年)
第4回 「重要な地域活性化の手段としての地域財(人・材)を活用した健康・省エネ住宅」(2011年)

そして、ほぼ同時期に開催されているシンポジウムが別にあります。

健康維持増進住宅シンポジウム
主催 :(財)建築環境省エネルギー機構
後援:国土交通省

第1回 「健康維持増進住宅におけるヘルスキャピタル概念の構築(基調講演テーマ)」(2007年)
第2回 「1年間の研究成果の報告」 (2008年)
第3回 「住宅と健康に関する先端研究の動向と居住者の意識・満足度」(2009年)
第4回 「健康で快適な住まいとコミュニティーのあり方を探る」(2009年)
第5回 「設計ガイドラインとCASBEE健康策定にむけて」(2010年)
第6回 「最新の研究成果と健康ガイドブック(居住者向け)の開発」(2012年)

どちらも「健康」を謳っていますが、それぞれのシンポに参加してみると『健康・省エネシンポジウム』は医学的見地を主体に健康的な社会を築くためのもの。『健康維持増進住宅シンポジウム』は従来の建築学に医学的見地を加え健康的な住まいをつくるためのものというのが実感です。また、後援者の違いからも読み取れると思います。

さて、健康・省エネシンポジウム5回目となる今回のテーマは、「省エネ住宅への関心を高めるための医学・建築学連携による《健康長寿に資する住宅・住まい方調査》推進と結果の国民共有を目指して―」とあります。主催者のセンスでしょうが、回を追っても変わらない大きなテーマに、その時の時事問題を組み込むところが上手です。

シンポのなかで私が気になったことを少々。
  • 住宅のバリアフリー化が行き過ぎると、かえって生活不活発病になりやすいという意見もあり、エビデンス(証拠・根拠)の収集が必要と。・・・・・・介護の観点からすると、階段・段差が良いということはあり得ない、予防を目的とする動作機能維持なら、社会性や精神安定を保つうえでも散歩・自転車・庭いじりなど住宅外での行動が望ましいと思います。
  • 日光不足は、高齢女性に多い骨粗しょう症からくる骨折による寝たきり化(生活不活発病)を起し、心理的にも影響が予想される。防止するうえでも高齢者居住スペースの採光によるビタミンD生成を促す工夫が必要と。・・・・・・高齢者は雨戸の開け閉めが億劫になり、室内照明で過ごすことが多くなるので、温熱環境と併せて設計にこのような視点をも、持つべきです。
  • 省エネ住宅化による健康性向上という便益を、財政難におかれる日本のシュミレーションに加えることが必要と。・・・・・・医療や介護の在宅化へとシフトする流れなので、「予防」と「便益」の関係を深掘りし実証する段階に入ったということです。
  • 都市部の高度成長期に建てられた団地(エレベータ無しの4~5層階段室型)には高齢者が多く暮らしており、訪問医療に伺う医師が患者を見る前に疲労してしまうことが問題となりつつある。・・・・・・建設当時の階段室型はプライバシーや防犯、風通しなどの利点から量産されましたが、今ではお荷物。いくら、当時の日本に財政難などなく、建物なんざスクラップ&ビルドすれば良かったとは言え、冷静に考えると、この国が先進国と呼ばれることに恥ずしさを感じてしまいます。
このシンポジウムは当分続きそうです。(※もうひとつの健康維持住宅シンポジウムは今年度末で終了し、一部引き継ぐような感じです。)もはや住環境分野では、医学との連携無しでは進まなくなった感があります。これからの数年は「実証」フェーズという位置づけで様々な場所で実験・調査が行われます。我々住宅設計に携わる者にもエビデンス化が求められる時代になり、まっとうな住環境がようやく提供できるようになったと喜ぶべきではないでしょうか。

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